必要なのはMPではなくて精神防御力

 昔はコンビニのホットスナックを買うことがどうしても出来なくて、何故って自分の声だとか顔だとか無意識の所作が死ぬほど嫌いだったから声を出したくなかったし顔を見られたくなかったし無意識の所作を封じ込めるので精いっぱいだったからだ。ぼくの気持ち悪い声や顔や所作を表に出してはいけないと信じ込んでいた。要するに自意識過剰だったのである。ぼくは「ファミチキください」が言えずにレジ精算のあいだ顔を伏せつつケースに並べられたファミチキをちらちらと盗み見るだけの青年だった。(嫌いになるのもわかるくらい気持ち悪い所作だ)

 時を経て今現在、近所のコンビニの揚げたてホットスナックをおつまみにして安酒を飲みつつこの文章を書いている。きちんと気持ち悪い声を出して頼んだものである。もうアルコールは脳に回っている。

 とは言っても自意識過剰が治まったのかと言えばまったくそうではなくて、自分の声は芯が通ってなくて不愉快だから嫌いだし、自分の顔は表情筋が死んでいるうえ様々な要素に遺伝子の悪意を感じるので嫌いだし、無意識の所作は心に何かしらの病気を抱えているのではないかと疑い始めているし、呪文「ファミチキください」を唱えるとぼくの気持ち悪い声や顔や所作を見られたショックで精神にいくらかダメージを受ける。

 受けるんだけれど、昔に比べれば精神防御力が上がったので、それほど致命的なものではなくなったのだ。進化と言うよりは成長、アセンションというよりはレベルアップである。ステータスの数値にいくらか加算される感じのレベルアップ。決して人間性は変わっていないけれど、強度が上がったので死ににくくなった。「ファミチキください」を唱えるのに必要なのはMPではなくて精神防御力。

 もちろんダメージ入るには入るので痛いは痛いのだけども。こう、ぼくもそろそろいい歳というか、年下のスポーツ選手が活躍し出しているんだけど…なんでぼくの声はこんなに気持ち悪いままなのか…? 声帯とか鍛えられたのでは…? 年下が大活躍してるんだぞ…ぼくは彼らより早く産まれたアドバンテージを何に使ってきたんだ…その…何だ…大谷凄いよね…あれはぼくと同じ種類の生き物なんだろうか…? こわい。大谷翔平ファミチキよりこわい。もう完全に酔ったのでここで終わる……