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魚のアイディンティティ

雑記

 きっと領海を泳ぐ魚は排他的経済水域を泳ぐ魚のことを「外側の胡乱な輩ども」だと思っているし、排他的経済水域を泳ぐ魚は領海を泳ぐ魚のことを「狭い世界しか知らない奴ら」だと思っている。

 例えば日本の領海の魚に言わせれば、大間のマグロであるとか明石のタイであるとか日高の銀聖ザケのようなブランド魚はすべて領海内で獲れているのであって、ブランド魚の獲れる海域は価値のある海域なのだから価値のある海域を泳ぐ魚は価値のある魚である。その点、排他的経済水域の魚はただ経済的、政治的な理由で日本の魚ということになっているだけの、「日本」というブランドにタダ乗りした正体の知れない信用ならない連中であり、価値のある我々と並べて語ることはできない胡乱な輩どもなのだ、というところだ。

 それを最後まで黙って聞いていた日本の排他的経済水域の魚は透き通った新鮮な目で領海の魚をじっと見据え、「海域の価値を自分の価値と安易に結びつけるな」と吐き捨てるのだった。排他的経済水域には漁を目的としない世界中の商船、旅船、ときには軍艦やほんとはいけないんだけど密漁戦が航行をしている。我々は世界に触れているのだ。中国韓国とせいぜいロシアの密漁船しか知らないお前らとは違って、我々は世界中に密漁をされている。それは世界中から必要とされているからだ。何が必要とされているのか? それは獲れた海域などという曖昧な付加価値ではなく、排他的経済水域の魚そのものだ。「排他的経済水域」の魚ではなく、「排他的経済水域の魚」が必要とされているのである。どうせどこで獲れようが目隠しで食べ比べればろくに区別もできないというのに、ブランド魚を有り難がっている人間は魚ではなくブランドという情報を有り難がっているというのに、お前ら自身がブランドを有り難りやがって。広い視点を知らないから、狭い世界しか知らないからお海の大将になってしまうのだ。その姿はただただ滑稽である。言い終えた排他的経済水域の魚の目は黄色く濁り始めていた。

 大きく分けてこの二種類のアイディンティティに加え、回遊魚であるとか養殖魚、ウナギ、クジラ、カニなどの魚介という種族のアイディンティティが加わるのだ。誰もが複雑で終わりのない論争を予想した。その先の悲劇を連想せざるを得なかった。12海里と200海里。ただ二者を分けるものは冷徹な数字それのみだと言うのに、どうしてわかり合うことができないのだろう。識者は嘆いた。

 けれど両者の対立は、ある第三者の存在により雪解けの道へと進む。――領海の外縁にあり、基線から24海里の範囲で沿岸国が設定する水域、接続水域である。

 そんなのあったっけ? 領海の魚はえらを傾げた。存在が政治的すぎる。排他的経済水域の魚は嘴を真一文字にした。

 国の権限が曖昧すぎる。政治的な意図で突然広がったのが気に入らない。ブランド的にはどう扱われるんだ? 海保の権限が中途半端なもの嫌だ。そもそも狭すぎるだろ。12海里の時点でしっかり測れるわけないのにそこから+もう12海里ってどうやって測るつもりでいるんだ? 領海が途切れた地点に看板でも立てるのか? 半端な存在で恥ずかしくないの? プライドはないの? どうしてそこから出ようとしないの?

 共通の敵を見つけた両者は、一丸となって接続水域の魚を攻撃することで和解した。咎める魚はどこにもいない。接続水域はもっともマイノリティであったから、誰もひれを差し伸べようとはしなかった。接続水域を泳ぐ魚は迫害なんて慣れっこで、死んだ魚のような目に、弱弱しい笑みを浮かべるだけだった。

 

 弱い者たちが夕暮れ さらに弱い者をたたく

 その音が響きわたれば ブルースは加速していく

 見えない自由がほしくて 見えない銃を撃ちまくる

 ほんとうの声を聞かせておくれよ

 

 ここは天国じゃないんだ かと言って地獄でもない

 いい奴ばかりじゃないけど 悪い奴ばかりでもない

 ロマンチックな星空に あなたを抱きしめていたい

 南風に吹かれながら シュールな夢を見ていたい

 

 TRAIN TRAIN 走っていけ TRAIN TRAIN どこまでも

 TRAIN TRAIN 走っていけ TRAIN TRAIN どこまでも

 

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 おわり