オチが弱いので勢いで誤魔化す話

 

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 白髪のお婆さんがぼくのスマホをさりげなく覗き込んできたとき、ぼくは読めるけど書けない漢字をひとつずつ潰すべく上記のアプリで黙々と問題を解いていて、お婆さんとぼくを乗せたバスは大交通都市TOKYOの常軌を逸した車の往来の中を荒々しい運転で走り抜けていたのだった。これは比喩ではなくて本当に常軌を逸していたし荒々しかったし走り抜けていた。東京は怖い。

 ぼくはひとり掛けのシートに腰を下ろして、スマートフォンに表示された「【ふ】和雷同」であるとか「【こう】堂に集まる」であるとか「【いちじる】しい進歩」みたいな穴埋めクイズに「付」とか「講」とか「著」と答えをシュバババババババと書き込んでいた。これはちょっと前のぼくからすれば考えられない程の進歩で、いずれありとあらゆる漢字の読み書きを完全に修めるであろう自分の姿を想像し悦に浸りながらふとバスの外に目をやると、背後のふたり掛けシート、その通路側に座ったお婆さんが窓にはっきりと映り込んでいたのだった。

 ぼくは窓を見ながらも並行して問題を倒し続けていて、そしてお婆さんの指もまたシュバババババババと宙に何かを描いている。お婆さんの目線は少し浮いていた。その先にぼくのスマホがあるのはまったく想像に難くない。

 まず最初に頭に浮かんだのは、「これは俺の漢字力を世界に見せつける最初の機会なのだな」という確信だった。

 お婆さんもそれなりに腕に覚えはあるのだろう。日本の文化圏で生きるということは漢字に触れ続けるということとイコールだ。パソコンも携帯電話も電子辞書もなかった時代からの老兵。人生経験がそのままアドバンテージになる。経験という観点では負けを認めるしかないだろう。だが…

 この…脳内処理のスピードに、若さに、ついてこられるのかな?ご老体…

 ぼくはギアをひとつ上げた。

 「植物の発【が】」芽!「留【す】番電話」守!!「不注意に【よ】る事故」因!!!「非常時に【そな】える」そな!!!!

 止まる指!!!!

 止まるバス!!!!!!

 さりげなく窓に映るお婆さんを見るぼく!!!!!!!!!

 空の座席!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 下車するお婆さん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 そもそも自意識過剰???????????????????????

 返す言葉もねぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 まったく、こんな事態にまでは備えてなかったぜ!ハハッ!

 

 

おわり