不要だけど不急ではない思い出ばなし

 僕が通っていた小学校は築何十年のボロもボロで、最終的に耐震基準がどうのみたいな理由で取り壊されてしまったのだけれど、そんな古い、田舎の学校だから設備もよくわかんない変なものばかりだった。

 そのうちのひとつが謎のエレベーター。大人ふたり入れるかな、くらいのサイズの鉄箱。

 その正体とは、エレベーターのそばの給食室から、できたての給食を詰めた配膳台車を二階三階四階に運び上げるために使っていたもの。らしい。

 らしいと言うのは僕が入学したころには既にすべての階のエレベーターがガチガチに施錠されていたからで、噂好きのやつが「エレベーターに挟まれて死んだ子供の幽霊が出るから使用禁止になった」なんて嘯くのだが実際にはそんなことはなく、「子供が挟まれたらどうするのか?」と保護者からのご指摘があり複雑怪奇な意思決定プロセスを経たのち封鎖することになったとのことである。教頭先生談。かくして給食は給食係が長い長い階段を登って運ぶ羽目になってしまった。

 ところで、普段はガチガチに施錠されているエレベーターだけれど、年に一回だけ使用される日があることを知っている児童は(たぶん)あまりいなかったと思う。

 僕の学校では毎年夏休みの真ん中くらいに、PTAや地域のよくわかんない人たちでもってグラウンドに屋台を出したり教室でよくわかんない展示をしたりするよくわかんない催しを開いていた。参加できるのは基本的に児童とその親と、あとは近隣の爺さん婆さんもどうぞ、って感じで、まあこぢんまりとした夏祭りとも呼べない何かなのだが、ちょっとすごいのは夜の部として行われていた校舎の大部分をコースにする肝試しである。

 肝試しと給食配膳エレベーターに何の関係があるんだと思うかもしれないが、つまり、児童がお化け役に脅かされて逃げる訳だけど、階段を登って逃げた先に、エレベーターを使ったお化け役が先回りするギミックがあるのだ。これはビビる。気合入ってるなぁと思う。教頭先生語るに毎年夏休みの頭にこっそり業者呼んで点検までちゃんとやっていたらしい。

 さてある年の夏休み、僕と二人の友達は肝試しへと挑んだ。

 毎年同じようなつくりではあるのだがなんたってボロいし、灯りは懐中電灯一本だけだし、校舎使ってるぶん長いし、上手いこと廊下を区切って教室の中から外から行ったり来たりさせたりする工夫もあってかなり雰囲気があった。ありていに言えばクソ怖かった。類が友を呼ぶドヘタレの集まりだった僕たちは、物影から突然響く録音の哄笑から本気で逃げ、窓の外から投げ込まれるただの紙束から本気で逃げ、瞬間移動する貞子のパチものから本気で逃げているうちに何も考えないで仕切りと仕切りの隙間に逃げ込んで、本来の巡回コースから外れてしまったのだった。

 だーれも脅かしてこないながーい廊下がずーっと続くうちにあーやっちまったかも……と気づく僕たちではあるが、それまで本当に何も考えず進みまくったので来た道をそのまま戻ろうとしても、逆に迷ってしまう。そもそもの校舎が無駄にデカい所為だ。

 基本的に器の小さな児童の集まりであった僕たちはすぐさま雰囲気が悪くなってしまう訳だが、幸いにも戦犯探しが始まる前に、ちょっとまで僕たちを追いかけていた偽貞子と再会したのだった。

 向こうもビビったのだろう、長髪のカツラを上げた貞子は懐中電灯をレーザーみたいにひらめかせて僕らを照らし、明かりのなかで偽貞子役の正体が(別に名前を隠す必要もないので書くが)カキモトという上級生の母親だったことが晒された。

 カキモト母の顔を見た僕は心中で「うげぇ」と思ってしまった。

 何故か。

 僕のクラスにはスズキという女の子がいて、彼女の家は工場を営んでいたのだけれど、経営が上手く行っていなかったらしい。それだけでも辛い話ではあるが、なんとまあ経営者であるところのスズキ父はPTA経由で出会ったカキモト母と急接近したのだ。曰く癒しを求めていたんじゃないかとかなんとか、二人で温泉に出入りしてるところを目撃した人がいるとかなんとか、元々カキモト夫妻はセックスレスらしいとかなんとか、自分の会社が大変なときに浮気に逃げるなんて男じゃねぇ、みたいに誰々くんのお父さんが怒ってたとかなんとか。こういうの保護者のコミュニティ経由で普通に子供に伝わってくるので全国の子を持つ親の方々は不倫とかあんまりしない方がいいと思う。

 それでスズキは虐めって感じでもないけど(いや本人がどう認識してたのかまでは断言できないけど)、いまいちクラスで浮いてしまっていた。彼女はほっそりとした可愛い子だったのでルッキズムの奴隷である僕は身勝手な義憤のようなものを抱き、クラスの空気の逆を打つ勇気もないくせにその場ではしかめっ面をつくって、友達二人も似たような感じだったので僕と同じようにわざとらしく苦々しい顔をしていた。

 あとカキモト本人がジャイアンのび太を足して二で割ったようなヤバイやつだったのもある。

 閑話休題

 コース戻んないとダメだよ、と僕たちに気づいたカキモト母は言って、はい分かりました、と引き返す僕たちだったが、冷静に考えてどう行けばコースに戻れるのか教えてもらうべきだった。

 でもまたカキモト母に会いに行くのは嫌だったし、なんとなく見覚えのある場所に出た(気がした)ので取り合えず突き進んだが、どうやら今度はコースを逆走してるようだった。どうしようか、と考えた僕たち三人。

「このまま入り口に戻ろう」と主張する僕と、同調するもうひとりの友達だったが、残ったひとりは「何とかしてコースに再合流しよう」と強固に主張、最終的に再合流派にひとり引き抜かれ僕だけが取り残されてしまった。

 これ以上暗い中を歩き回りたくないから引き返そうと主張したのにかえって独りで怖い思いをする羽目になった僕である。小学生のころから人生でずっと同じようなことを繰り返し続けているのがよくわかる。

 別のグループと合流できたら嬉しいな、とか細く期待しつつ逆走し、迷う前に偽貞子に追われた廊下から顔を出すと、暗闇の中で、エレベーターの前に佇む子供の姿を見た。

 本物の幽霊だと思った。

 声なんか出ないくらいに一瞬で身体がガチガチに固まって、でも目尻に涙がじわーと滲んできた。

 懐中電灯も持たず児童がひとりで居る訳ないし(自分のことを棚に上げている)、よりにもよって幽霊の噂があるエレベーターの目の前だ。

 きっとアレは挟まれて死んだ子供に違いなくて、馬鹿が幽霊の振りして騒ぐから本物がやってきてしまったんだ。

 と、その瞬間は本気で信じた。何秒か身動きできず固まっていると、窓の外の道路を走る車のヘッドライトがひゅんっと通り抜けて、廊下と、幽霊の三つ編みを照らした。

 僕の知り合いの女子で三つ編みを垂らしているのはスズキと後何人かで、いちばん印象に残るのもやっぱりスズキで、だから目の前の女の子がスズキなのに気がつくのもそれほど時間は要らなかった。

『あっこいつスズキ?』って思った瞬間に脳みそから幽霊のイメージが霧散、髪型やら背格好やら暗い中でもちょっと見える服の柄やらがもう完全に昼間みたスズキと頭の中で合致して、ビビらせんなよマジで何やってんだよスズキ~~~~~。と思う。実際スズキは何をやっていたのか。エレベーターの近くでごそごそしていた。落とし物でもしたんだと僕は判断。あるいは友達に置いて行かれたか。ともかく枯れ尾花を見破ったとは言え泣く三秒前くらいの状態になってたので声出した瞬間決壊しそうだったし、万が一スズキっぽいだけの幽霊だったら?声をかけた瞬間グワアッっと立ち上がって襲い掛かってきたら?なんて不安もまだあってなるべく音を立てないようにその場を離れた。

 それでうろうろしてたら別のグループの人たちと遭遇して、最初はお化け役だと思われたけど何やかんやでそっちのグループに入って、友達よりも早くゴールした。

 

 夜のメイン行事である肝試しと並行して体育館ではぬるいカラオケ大会みたいなものが開催されていて、そんなものに参加するのはカラオケ大好きジジイと自分のことを可愛いと思っている女子のグループくらいだけだけど、でも僕は自分のことを可愛いと思っている女子を素直に可愛いと思うタイプの無垢な少年だったので普通に楽しんでいた。すぐ帰るのは勿体ない気もしたし。

 僕の親はこういう行事に参加するタイプの人間ではなくて、友達の母親に引率してもらっていたから友達が帰っちゃうと一緒に帰らなきゃいけなくなる。だから必死に話振ったり肝試しのことを蒸し返したりして時間を稼いだりした。友達の親のイライラが透けて見えるくらいまで長居していると、すぐ傍で騒ぎ声がした。

 見ると、大人が、それも女のひと同士が大声を上げて掴み合っていた。

 片方はカキモトの母親で、ちょっと引くぐらいのガチの喧嘩だった。

 周りの大人の男のひとが割り込んで、辺りに人だかりが出来て、僕も混ざろうとしたら友達の母親に止められてそのまま帰宅する流れになった。

 なので喧嘩の顛末も、よくは知らない。

 

 以下は友達や僕の親経由で入ってきた情報をまとめたものになる。

 カキモト母の身に何があったのかと言うと、逆走した僕たちと別れたあと、偽貞子のコスプレで廊下からエレベーターに入ろうとした瞬間、いつの間にか足元に並んでいたスプレー缶に躓いて転んで顔を打ったらしい。

 貞子の瞬間移動ギミックはスピードが命だ。本当はしっかり鉄箱の中に入ってから上昇下降の操作をすることになっているが、逃げる子供たちの足の速さに対応するために、先に箱の中に腕を突っ込んでボタンを押してから身体を滑り込ませる、というような真似も実際の現場では行われていて、カキモト母もそれをやろうとしていた。なんたってボロくて安全基準なんか無い時代の機械だから、危ない使い方も簡単にできてしまえるのだ。

 運良く上昇のボタンを押すよりも先に転んだカキモト母だけど、もし何かが僅かに違っていれば、ギロチンみたいに身体を挟んで死んでいたかもしれない。

 当然、エレベーター付近は丁寧に片付けることになっている筈だし、他の貞子役(シフト制らしい)もそれは知っている筈。

 誰かが悪意を持って置いたとしか思えない。

 このスプレー缶は肝試しの仕切りの塗装に使ったものだ。

 犯人はお前らうちの誰かだ。

 とのように怒ったらしい。

 更に言えばそれもまあ切っ掛けというか怒りの取っ掛かりに過ぎなくて、カキモト母は周りからヒソヒソ噂をされ続けている人だからはっきり表に出さなかっただけで元々かなりフラストレーションが溜まってて、それがスプレー缶の所為で大爆発してついにブチ切れた訳である。

 でも肝試しの設営に関わった人たちは皆身に覚えがないと強固に主張していて、大半はカキモト母のことを元々舐めていた人たちだもんだからカキモト母からの思わぬ攻撃に逆切れ(?)してヒートアップし、ついに暴力沙汰になった、という経緯。

 

 ところで、スズキ夫妻は教室の飾りつけや肝試しの設営にも関わっていて、両親が熱心だと子供が駆り出されることも珍しい話ではなかった。

 だから、もしかしたらスズキがスプレー缶を手に入れるチャンスはいくらでもあったのかもしれない。設営側に混ざればお化け役の移動パターンを把握するのもそれほど難しくはないだろうし、スズキは浮いていたから、肝試しの間にいなくなたって気にする友達はあまりいない。

 状況証拠は揃っていて、動機はいくらでも思いつく。

 見たのは僕だけ。

 僕はその後どうしたのかと言うと、特にどうともせず、いやどうともしないって言ったら嘘で、スズキを卒業まで露骨に避けるようになったのだけれども、元々女子と積極的に絡めるタイプの陽の少年ではなく、ひたすら陰の者たちとだけつるんで過ごす陰の少年だったので、やっぱりどうともしなかったのと大して変わらないんじゃないだろうか。

 結局肝試しの夜のことは誰にも言わず、そのうち自分でも忘れて、たまーに思い出して嫌な気持ちになりながら小学校を卒業した。スズキはどこかのタイミングで勉学に目覚めたらしく、地域でいちばん頭のいい中高一貫校に進学した。素直に尊敬する。卒業式以来顔も見てない。

 

 

 オチ。

 高校のころ。図書館をうろついていたら別々の中学校に進学して以来疎遠になっていたクラスメイトとばったり再開した。

 元々特別に仲が良かった訳でもなく、近況報告のネタはあっという間に尽きる。そして話すことがなくなると、陰湿な田舎者という生き物はだいたい共通の知り合いの噂を始めるのである。

 

「そういやカキモトっていたべ」「ウワキの?」「うん。最後どうなったか知ってる?」

 カキモトはそのクラスメイトと同じ中学に進学していたのだけれど、なんやかんやあって転校したという話は聞いたことがあった。

 クラスメイトが語ったのは、沢山あったのだろう『なんやかんや』のうちのひとつで、彼曰く、僕たちが小学校を卒業した次の年の冬に、カキモトの母は歩道橋から転がり落ちて死んだ。

 らしい。

 僕は冗談めかした口調で、

「で、腹の中には不倫相手との子供が」

 なんて不謹慎に笑い飛ばそうとすると、クラスメイトは白けた顔で不満げに言った。

「なに、知ってたんかよ」

 

 どこまで行っても状況証拠でしかないから、この話はこれで終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で「真実に嘘を混ぜてそれっぽいつくりばなしをするレッスン」でした。

 上にダラダラ書き連ねた話は基本的にそれっぽく地元のディテールを混ぜただけの創作です。こんなもの不要だけれど書くんだったらもっと急ぐべきではあって、ホントなら一週間前に投稿しておくような内容なんだけど、でも今思い出したんだから仕方がないよね。

 地元との繋がりが切れてしまったし帰る気もないからスズキ(スズキではない)が今どうしてるのかは知りません。上手いことやってるのを祈ります。

 

 

 

 

おわり

おまえにエグゾードフレイム

 上京してから通い続けている最寄のスーパーマーケットで長らくポイントカードを出していなかったのは店独自のカード以外は利用できないと思い込んでいたからで、独自のカードはクレジットカード機能つきの、作成に時間と手続きと一定の精神コストが必要なものだった。生きるだけでコストが枯渇する僕はお得を追求する気持ちより面倒が勝って「ちょっと頑張れば得られる筈の何かをドブに捨てているなあ」としみじみ感じ入りながら酒とおつまみを買う日々を送っていた。

 そのスーパーはいわゆる共通ポイントサービスに加入しているので僕が元々持っていたカードも使えると知ったのは通い始めて半年ほど経ってからで、その切っ掛けというのが店員さんが話かけてきたことだ。

 

店員「あの、ポイントカード作りません?」

ぼく「えっ」

店員「お客さんよく来るけど持ってないみたいだな~て思って、コンビニのカードとかも使えるんですけど」

ぼく「えー?(無垢)」

 

 店員と客、お互いがお互いを“個”として認知していることが明らかになった瞬間、脳の対人コミュニケーションをするときに使う部分が勝手に働くようになってしまい、NPCの眼前で会話ボタンを押すような気安さが損なわれ結果コミュニケーション能力の弱い人間はその店を避けるようになってしまう――いわゆる「おまけしてくる定食屋問題」、経験している方も多いだろうが、その時期の僕は比較的に心に余裕があり「社会をやっていくぞ!」という気持ちがまだまだ活きていたので、なんだ持ってるカードが使えるならちょうど良いじゃん!教えてくれてありがとう!くらいのテンションで対応、以後しばらくその店で買い物をするときには必ずポイントカードを出すようになった。

 明確に変化したのは節約だとか食生活というより食に纏わる消費行動そのもので、食べるものに強い拘りがなく、安くて腹に溜まるものとアルコールを自動的に買い物かごに入れていた脳死の日々はより多くポイントが付く商品を能動的に探し当てる受動的な毎日に好転!

 たとえそれが店に誘導されたものだったとしても「選択」しているという実感は生活に良い意味での俗っぽさを彩り、俗っぽさは自分が俗世間に足をつけることができているという錯覚を与えてくれる。自分が実社会にコミットした社会人であるかのような夢を見せてくれるのだ。

 あの日々こそ僕とポイントカードの蜜月だった。

 僕はあの日々の中であって産まれて初めていち社会人であったのだ。

 しかし……いま思えば、ここで中途半端に社会性を発揮してしまったせいで、余計に面倒なことになった気がする。

 というのも、僕は七日しかない一週間で何と五日間も労働をする日々を送っている*1ので常々疲弊し続け社会人をちゃんとやるのマジ向いてないしちゃんとやるために頑張るの人間性的に無理なのに明日もちゃんとやらなきゃいけないの?は?死ぬ?という苦しみが精神を蝕み、気力がズタボロに砕かれ、表情筋が崩壊して口をろくに動かせなくなってしまったのだ。

 そもそも「ポイントカードお持ちですか?」に応じて「はい」と発話し、ポイントカードを財布から抜き出し、金銭とは別にカードの受け渡しもするための精神的コストって全然馬鹿にできないんだよな、だって通常のやりとりに加えて3アクション追加されるんだ。怠いときって人体の能動的実際的具体的操作のひとつひとつが本当に面倒になるからマジで声も出したくないというか声を出す燃料がなくなる。

 でも「長期記憶にハンデを抱えてるのか?」って煽られたら悲しいので僕にポイントカードのことを教えてくれた店員さんが待機しているレジは避けるようになってしまった。結果的におまけ定食屋現象に近いことになっている。

 もちろんその店員さん個人を避けたから解決って話でもなくて、顔を覚えられるくらい通ったのだから他の店員さんとも何となくお互いがお互いを認識し合っているのがお互いに分かる。それを踏まえた上でちょっと僕の立場で考えてみて欲しい。店員さんと認知し合っている店でそれまで出していたポイントカードを出さなくなったら、以降の立ち回りクソ面倒じゃないだろうか。

 だって「こいつはポイントカードを出さない奴なんだな」→「なんだこいつ急にポイントカード出すようになりやがってよこっちの接客ルーティン崩してんじゃねぇよ」→「と思ったらま~~たポイントカード出さなくなりやがったぞ精神が分裂してんだな119番か?」という流れの上に今いるのが僕なわけで、この上で更にポイントカードを出すようになってしまったらどうなる? 想像に難くない。スーパーを出るころには店員さんの通報により急行してきた黄色い救急車でどこか遠いところに搬送されるに決まっている。職場より遠い遠いあの場所の方がよほど居心地よさそうなのがかえって問題で、働かなくて済むなら永遠に閉じ込められる方を選ぶだろうしそこからの発展も望めないのでイコール人生のエンディングだ。まだ終わりたくない。

 君が考えているほど他人は君に興味を持っていない、無駄に恥ずかしがるな――とは自意識過剰な人へのアドバイスとして耳にタコが出来るくらいに聞くが、僕は自分の労働で関わるすべての人間を隙あらば心中で罵っているし全人類も僕と同じくらい魂が汚いと信じている。おまえたちのことを信じているのだ。心から。だからおまえがどう諭そうとも今更ポイントカードを出せない。罵るのはいいけど罵られたくない。救急車呼ぶのはいいけど呼ばれたくない。精神コストを要求するのはいいけど要求されたくない……

 と言うわけでポイントカードまったく使えてないのだった。冗談ではないマジのやつである。「ちょっと頑張ったから何かをドブから拾えたのに同じ手でまーた捨てているなぁ」と評する乾いた笑顔の目尻からは自分でも理由の分からない涙が流れ、消費者として充実していたあの日々を忘れられないが戻ることもできず、ただ欲求のみがため息と共に二月の乾いた空気に溶けていく。どうしようもない。終わってしまった話だ。すべて労働が悪く、僕は悪くない。

  かくして、僕のポイントカードは財布の奥底に封印されている。

 封印されているので手札に五枚集まると特殊勝利できるかもしれない。人生に特殊勝利してェ!

  くらえ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!

 

 \怒りの業火!/

🖐😡🤚

🦶🦶

/エグゾード・フレイム! \

 

 うおおおおおお~~~~~~~~~~~!!!!

 

 

 

 

おわり

*1:日本でもトップクラスの労奴だと自認している。え?君も同じくらい働いてるの? すご~~~~~い

買えば良かった2019

 

  前略

 

最新つよつよゲーム機とつよつよゲーム

PlayStation 4 Days of Play Limited Edition 1TB (CUH-2200BBZR)
 

 

【PS4】DEATH STRANDING

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【正規輸入品】Oculus Go (オキュラスゴー) - 64 GB

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高くて分厚いつよつよ人文書

生まれてこない方が良かった―存在してしまうことの害悪

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 いま最もポップな思想であるところの反出生主義もかつてポップだったインターネットラディフェミ勢や弱者男性論壇のようにFF内での承認回しが何よりも優先されるようになるだろうが勉強しておけばいざそうなったとき知った顔をできるのでベネターの本だって買えば良かったが、インターネットで知った顔をするために3000円払ってしまったらそれは何かの『終わり』だし、別にゴリゴリにアカデミックな倫理学をやりたいわけではなく知的なフリをしたいだけだし、インターネットの闘争を覗くくらいなら青空とか花を見る方がずっと精神に効くし、それに加えて労であへあへになっていたらいつの間にか文章を読解する能力が終わっていたので買わなかった。でもどうせこれから言及される機会が増えていく話題だからいつレスバトルになるか分からないし同じ本なら文庫より鈍器になる方が物理バトルにも対応できるのでやっぱり買えば良かった。

 

 

 

 2020年も欲求を敢えて満たさないことで、満足の先に待ち構える魂の死(価値があると思っていたものに飽き、そのうえ加齢によって感性が磨耗するので新しいものに興味を持てなくなる虚無)から逃げ続けるぞっ!

 ウオー👊🤣

 

 

 

 

 

 

おわり