「最近読んで面白かった漫画を淡々と記録するコーナーリターンズ」最終回
ついに最終回です。
スクール・アーキテクト
全二巻。
77円なので買った。(この文章を書いている時点でもう77円ではない)
アキタランド・ゴシックと同作者の学園もの。
全二巻ではあるけれど一巻と二巻はそれぞれ(基本的に)独立した別の話(ただし根底は繋がっている)。独立してはいるけれども構成に共通する部分があって、(たぶん)前振りの各キャラクター紹介編と(恐らくは)本編「スクール・アーキテクト」編の二部構成になっている。
うーん奇妙な漫画であった……どこまで精読出来てるのだろうか。語る上で()を乱用せずにはいられない。
一巻は理想の世界(=永遠なる「日常四コマ」)を構築しようとする話で、
二巻は世界の枠組み(=「日常四コマ」の枠組み)を破壊しようとする話?
きらら漫画ってこういうのもあるのね……アンテナ低かったな……反省……
夜森の国のソラニ
全三巻。
77円なので買った。(この文章を書いている時点でもう77円ではない)
現実に戻りたくない人間が辿り着く夢の中の常夜の森と、森に迷い込んだ記憶喪失の少女、そして目覚めていく人々を見送り続ける森の守り人の物語。
昔のGファンタジーに載ってそうな漫画だと思った。ゼロ年代ガンガン系列特有のマイナーメジャーな空気感を継承しているのはきらら系統なのかもしれない……僕は今クソほど適当なことを言っています。
可愛らしくも仄暗い絵柄が描きだすのは、夜の闇から光の中へ歩き出すまでの再生の物語であり、それとは別に本筋っぽいストーリーもあるんだけどこちらが難しかった。特に〇〇〇がマジな〇〇の〇〇だったのは難しく……何作か買って分かったがきらら4コマ漫画は僕が思っていたよりもずっと難しいジャンルだ。これからも勉強していきたいね……
ID:INVADED(2) #BRAKE-BROKEN
ヤングエースで連載中。単行本は二巻まで。
漫画版ID:INVADEDの二巻。
めっちゃ面白い。展開の速い犯罪エンタメとしても暗示に満ちたメタミステリとしても面白い。一巻の三倍くらいは面白い……けどゴリゴリにアニメ版の続きなのでいきなりこっち読んでも多分面白くはない。放送とほぼ平行して連載していた一巻収録分は立ち位置と一緒に牙も隠していたなぁと思う。
ともかくアニメ版履修済みの人にはお勧め。前知識があると「なんでそんな酷いことするの……?」ってなる場面があるぞ。舞城~~~~~!
アニメも漫画版も面白い。
なので小説版も読みたいなーと正直思う。もっとミステリを書いてよ舞城王太郎……いや「淵の王」は大大大大大傑作ホラー文学だったけど……ミステリを書いてよ。
魔法少女にあこがれて
ストーリアダッシュ(旧まんがライフSTORIA’)で連載中。単行本は二巻まで。
魔法少女にあこがれた女の子が不本意にも悪の組織の女幹部になってしまうけれども戦いの中で自らのサディスト性を開放していくソフトレズSM漫画。
最近のソフトエロ漫画の中ではいちばん好き。
少年誌描写ラインのリョナが好きな人は絶対読もうね~~
余談
数日前のぼく「お酒に充てているお金を漫画に使うことで禁酒するぞ~~~~~」
いまのぼく「漫画おもしろ~~~~~~~~~(ポチポチ)(ゴクゴク)(ポチポチ)(ゴクゴク)」
ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!
ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!
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「最近読んで面白かった漫画を淡々と記録するコーナー」最終回
ついに最終回です。
アキタランド・ゴシック
全二巻。
77円だったので買った。
イかれた土地・アキタランドのシュールな日常生活を描く漫画。
本来的に死と隣合わせである筈の記号を死とかけ離れたポップさで描写していて楽しい。なるほどポップなゴシック。
キャラが可愛いのがよかった。
双角カンケイ。
全二巻。
77円だったので買った。
双子の片割れに成り代わって女の子と付き合う漫画。
めちゃくちゃ楽しく読めた。主人公のその場しのぎ力(ぢから)がクソ高くて尊敬してしまう。人生かくありたい。
どう落着するのか気になって77円ではない2巻も購入。エゴの塊みたいな女たちが全員で地獄へ突き進んでんな~~と思う。終わり方がスッキリしない? いや全員で地獄に突き進んでるんだからこれでいい。むしろこれがいい。西へ……太陽が沈む西の荒野へ歩いて行こう……
サジちゃんの病み日記
全二巻。
77円だったので買った。こちらも二巻はセール外。
表紙と帯は「ギットギットンコッテコテのエログロ暗黒インモラルなハイカロリーヤンデレ漫画を食らえーーーーーーーーッ!」だが中身はそうでもない。むしろ根底に高いモラルがある漫画だと思う。
「関係性萌え」ってこういう事なのかな~~。
「相手を理解してあげること」「相手に対して誠実に向き合うこと」という二本の軸がある物語だと解釈した。後半に起こるヤンデれる⇔ヤンデれられる構造のちょっとした変化は、上記の軸に対して各キャラクターがどのように対応するかを浮き彫りにする。
「双角カンケイ。」のキャラはエゴの塊なのが愚かで可愛かったけど「サジちゃんの病み日記」 のキャラは他人に対して誠実であろうとするのが可愛い。好対照では。
77円セールで買った漫画の中ではいちばん好みに合っていた。
しにたいおんなのこ
Twitter連載サイレント漫画。楽しませて頂いたのでkindle版を買った。
— るぅ (@kawaiishinitai) 2020年5月17日
Twitterからでも全部読める。
死にたい女の子の物語である。
無理やり文章の形に収めると陳腐になってしまうような感情も世の中にはあって、それはきっと増えることはあっても減ることはないんだろうけれど、だからこそ「絵」というメディアはとても強いんだな~~と思う。
可愛らしい絵柄で描かれる「死にたさ」「死ねなさ」は中盤に思わぬ大回転をして物語全体の構造すら変化する。そこに映し出される感情を伝えるにはサイレント漫画がきっと最良の形式で、言葉の形だと歯が浮いてしまうようなものをダイレクトにぶつけてくれる。
とてもよい漫画だった。連載してくれてありがとう……感謝……そしてさようなら……
— るぅ (@kawaiishinitai) 2020年7月11日
って二部始まっとるやんけーーーーッやったーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
胎界主 第三部<翻訳儀典>
ぼく「秩序の信奉者だった頃のソロモンが描かれるのか~~」
↓
ぼく「秩序の信奉者だった頃のソロモンが描かれているのか……?」
十年以上かけて描かれた作品世界の大前提が急にズブズブ沈んでいくのは胎界主だけ!
余談
思ってたよりお金を使ってしまった。とは言え禁酒すればトントンになる程度ではあるけれど。
これからも漫画を読んで禁酒をするぞ~~~~~~~~~~~!!!!!!
ウォ~~~~~~~~!!!!
最近読んだ面白い気狂い漫画
お題「#おうち時間」
おうち時間全然増えなくて発狂したので最近読んだ面白い気狂い漫画の話をします。正気のお前たちは暇してるなら読めばいいと思う。
珊瑚と人魚
http://www.comic-ryu.jp/_sango/
COMICリュウWEB掲載。全四巻完結済み。うえのURLから三話まで読める。
嘘に痛みを知覚してしまう特異な瞳を持った少年「天春珊瑚」と、気の狂った不老不死の美女「人魚」、そして嘘を纏う少年「魚住灯」が織りなす現代伝奇。
この漫画の何が好きかってともかく絵のセンスと台詞選びのセンスとキャラクターを描くセンスで、全部が心臓に刺さってくる。センスで殺される。
雨の表現、木漏れ日の表現、星空の表現、ひとつひとつにじぃっと見入ってしまう。繊細かつ柔らかい画風で描かれるそれらはこころの機微を描く物語の背景として適切に主題に奉仕している。抽象的なものを描こうとする手つきが繊細で柔らかいのはとても正しい。大大大正解だ。語り口と語るものが一致している創作物をみると嬉しくなってしまう。明確な意図を持つ創作者の手のひらの上で転がされる喜び。
そして何より人魚が気狂い可愛い。
前半はこの女やっべ~~~~って慄きながら読む漫画で、緩やかなテンポのコマ割りでじっくりと表現される静かな狂気、人間を深淵に引きずり込むような危うさ、得体の知れなさを味わうことができる。
慄くのもそれはそれで楽しいのだけれど、読み進めると得体が知れてきて、同時に周囲もまあまあ面倒くせぇことが分かってくるのが後半の面白ポイントだ。
丁寧に掘り下げられ、解体され、寄り添われた狂気が最終的に辿り着くのは、まるで普遍的な感情のような形をしている仄暗くも穏やかな地平だ。それは“落ちつくべきところに落ちついた”というだけで別にハッピーエンドではないのだけれど、しかし静謐で、綺麗なのである。
「珊瑚と人魚」は綺麗な漫画だ。
繊細に取り扱うべき叙情を評価する言葉としてあまりにも安易だから個人的に封印していた「エモい」という賞賛を今作に限っては使いたい。だってエモいから…エモエモのエモ……
ガッツリ描写してるわけではないけどBLっぽい展開がちょっとだけあるので男男見たら死ぬ人は気を付けてください。それ以外の人には広く勧めたい。今回紹介する漫画の中では一押し。最初の方読んでみて「これは!」と思った人なら買って損はない。はず。
当て馬カノジョ
https://mangacross.jp/comics/ateuma
マンガクロス掲載。全二巻完結済み。うえのURLから最初の方(と何故か6話)が読める。
七海先輩(♀)が大好きな大空栞(♀)。勇気を振り絞って告白したら、なんと彼女にしてもらえることになりました。でも先輩は「“当て馬”としてお付き合いをよろしく」と言ってきて…?? ハイテンション、だけど切ない、トライアングル百合ラブコメ♪
amazon商品ページから引用
『珊瑚と人魚』が静の狂気ならこちらはアクセルを全力で踏み込む動の狂気、気の違った女の子が三人も出てくるので通常の三倍気狂い強度の高い狂人百合コメディだ。
気狂いその1!
七海花音!
元カノに嫉妬をさせてヨリ戻す切っ掛けをつくるために他人を利用する邪悪な狂人!
性欲が強く、押しに弱いぞ!
気狂いその2!
陸田怜!
振った元カノが知らん女と濃厚接触してるのを見てNTRに目覚めた狂人!
そもそもこいつの脳が破壊されなければ成立しなかった漫画だ!
気狂いその3!
大空栞!
二人の気狂いを正面からぶち抜こうとする努力の狂人!
メンタリティは正統派主人公だ!バトル漫画の!
タダなので取り合えず二話後半まで読んでほしい。シンプルに面白いのでシンプルに楽しく読めるハイテンション百合コメディである。めっちゃエッジ利いてて凄い。
構造上、NTRの子だけ他に比べて狂人としてひとつ格高いところにいるのに笑ってしまうんだよな(狂人の格って何だよ)。痛みを望むからこそ強靭なNTR性癖という強キャラ、その壁に狂気めいたポジティブさで立ち向かう物語でもあり、やっぱ根本的にバトル漫画だ。
ハイテンションギャグと共に進行していく捻じれた三角関係は、更に捻じれたその上でストレートな、好意と他者愛についての話になってくる。
特異な基本設定から逃げず、かなり誠実に女女をやっているのが好印象なのだけれど、終盤は駆け足気味になってしまっている。もう少し長く作品世界に浸かりたかったという気持ちは、正直、かなりある。
商業漫画の世界とはままならないものだ。応援が足りなかったのが悪いと言えばそれはそう。返す言葉もない。
鈴菌カリオ先生の次回作は真剣に追わないといけない。
好きな漫画の話はもっと積極的にしていった方がいいのだろうな、と思う。
侵略好意
https://urasunday.com/title/1131/107265
裏サンデー、マンガワン連載中。既刊一巻。うえのURLから最初の数話が読める。
はじめてのリア友は宇宙人でした。
度重なる転校、母の蒸発、父との死別・・・家でも高校でも独りのイソラに、宇宙規模の出会いが訪れる。エゴノミミと名乗る宇宙生物との出会いで、心満たされるイソラだが・・・
もう“普通”には戻れない――
amazon商品ページから引用
暴走自動車からクラスメイトを助けて友達になる妄想をしつつニヘヘと笑う女子高生「イソラ」の学校に落下してきたのは周囲の生き物を串刺しにする謎の宇宙生物。
宇宙生物からクラスメイトを助けて友達になるべくニヘヘと笑いながら、イソラは単身戦いを挑むのだった……この時点で既に尖がっている。
けれども敢えなく返り討ち「ひとりで死にたくない」と叫ぶ彼女の眼前に現れたのは別口の宇宙生物。イソラに寄生しその身体を攻撃的に変化させた彼が言うには、もはや片方が死ねばもう片方も死ぬ一蓮托生なのである。かくしてイソラは生まれて初めて誰かに頼りにされるのだった。
基本設定だけだと寄生獣っぽいのだけれど、話を引っ張るのは完全に寄生された人間の方だ。実際読んでみると宇宙生物も引くほどのイソラのイカレっぷりや、卑屈な笑顔の気持ち悪さに目が行くが、考えてみれば“友達”のために命を張る彼女の行動はヒーローそのものである。ただ欲しいものや素晴らしいと思っているものや自分の信念に対して純度が高いだけなので、つまり気が狂っている。
そして周囲が彼女の狂気に呑まれていく物語でもあるらしい。“友達”を信じ、“友達”に自分を信じさせることで狂気の輪が広がっていく。初志を貫き通して幸せになって欲しい……幸せになって欲しい系狂人。善の方向にノーブレーキで突き進んでいく狂気を楽しく愛でることが出来るよい漫画である。
マンガワンというスマホアプリで連載されている漫画は本編とは別に「SPライフ(課金アイテム、配布の機会も多い)」を消費して読める「ちょい足し」という数ページ漫画もミニ連載されていて、そちらは基本的に単行本には収録されないというクソ阿漕な商売をやっているのだが、阿漕だな~と呆れつつ貯め込んだSPライフをポチポチ消費してしまう。かわいいので。
最新話ではライバルの狂人が登場するなど少年漫画っぽいことをやっている。最近始まった漫画の中では飛びぬけて続きが気になる。今後とも注目していきたい。
チェンソーマン
https://shonenjumpplus.com/episode/10834108156650024834
週刊少年ジャンプ連載中。既刊六巻。うえのURLから最初の数話が読める。
悪魔のポチタと共にデビルハンターとして借金取りにこき使われる超貧乏な少年・デンジ。ド底辺の日々は、残忍な裏切りで一変する!! 悪魔をその身に宿し、悪魔を狩る、新時代ダークヒーローアクション、開幕!
amazon商品ページから引用
いちいち紹介するまでもなく皆もう読んでるだろうか。ジャンプだし。
メジャーに対する逆張りで週ジャンの掲載位置が前の方の漫画を下に見ている/いた人はいるかもしれない。っていうかはてなブログ読んでる層なんて大半がそれか?
おい!そこのドラゴンボールでもワンピースでもなくジョジョを読んで育った逆張りネット民!お前のメンタリティは今現在チェンソーマンを読んでいる若い読者が受け継いでいるぞ!
カラっとした陽の狂気とじっとり湿った陰のエロスをカッコよく纏め上げたハイセンスエログロエンタメ漫画であるところのチェンソーマンは、割とライヴ感重視の作風でもあるのだが、そのアドリブ性は瞬間瞬間描かれたものが刹那的に燃えて輝く「週刊連載」という発表形式と見事に合致しゲラゲラ笑えるその場の楽しさを提供してくれる。
でもあんまり少年漫画っぽくはない。何だったら「侵略好意」の方がまだ週ジャンに載ってて違和感ない。
一話がやたらバズった前作「ファイアパンチ」の頃から「アフタヌーンぽい」と言われている藤本タツキ先生である。
なるほど今作に関しても、書き込みの緻密さは言わずもがな、敢えて王道に背を向けるような展開や、「ベタ」の存在が前提の肩透かしと驚きの緩急、モブではなく“生きたキャラクター”の死を容赦なく描くそのセンスは「サブカルが読むあんまりメジャーじゃない漫画雑誌の漫画」っぽいし、なるほどアフタヌーンぽい。(他意はない。)
この漫画を語るとき「逆張りが行き過ぎてファイアパンチ化しそう」と心配されている光景をたまに見る。僕はファイアパンチは最初から最後まで面白かったと思っているので「別に良いじゃん?」って感じだが、あちらに比べればまだ“逆張ってない”、良い意味でポップな作風なのも事実ではある。
だいたい頭おかしいキャラとかチェーンソーとか血しぶきとか少年誌でやるソフトエロとかみんな好きでしょ。王道じゃないだけでちゃんとポップだ。
そのうちアニメにもなりそう。チェーンソー頭がぎゅんぎゅん動いてるところ観たい。
胎界主
非商業。毎週金曜日に更新。うえのURLから全部読める。全部!フルカラー!
https://www.pixiv.net/fanbox/creator/31487
最新話はpixivファンボックスで毎週火曜日に先行有料公開。
何が狂ってるって一貫性だ。
通底するテーマの強固な一貫性、そして作者鮒寿氏の創作に対する態度の一貫性。求道的ですらあるその歩みが「胎界主」という漫画そのものなのである。
序盤こそ怪異と対峙しその性質を解き明かして退ける伝奇ホラーふうのフォーマットを採っているが、それは物語の一側面でしかない。
敢えて言うならホラーエログロナンセンスダークファンタジーメタフィクション? 少年漫画っぽい要素もないではない。ジャンルで括ること自体にあまり意味を感じない。
じゃあどんな漫画なのか?
だらだら説明するより読んでみるのが早い。
試しに上のURLから一話『使い魔』を読んでみて欲しい……
読んで頂けただろうか。
たぶん読みにくすぎて何も頭に入ってこなかったのではないだろうか。
単純にどのコマからどのコマに読み移ればいいのかわかりにくし、独自用語が異常な量出てくるし、冒頭で描写された主人公の謎技能が使われないまま「魔王」を倒してしまうし、そもそも「魔王」のバックボーンもよくわからんし、肝心の「胎界主」概念について説明らしい説明がなされないし、最終ページの主人公の言動がなんでそうなるのか意味不明だし、「町田」が誰の事なのかもわからなかったと思う。
意味わかんないよね。誰でも最初はそう。あなただけではない。安心して欲しい。
胎界主の作中には「認識ロック」という概念?技?が登場する。
これを受けると文字通り、特定のものを認識できなくなるのだが、初読の胎界主はまさにその状態である。あなたはいつの間にか認識ロックを喰らってしまっている。
そして、ざっと設定や状況を把握したうえで読む二周目の胎界主一部は…自分にかけられた認識ロックの解除を自覚する特異な読書体験ができるのだ。
そう、意味わからなかった部分が!何の話をしてるのか分かる!分かるのだ!誰がどんな目的を持って何のために行動しているのか、何故凡蔵稀男は四葉のクローバーを拾わなかったのか!説明できるのである!
いや全部ではない。結局よくわかんないところもある。それは愛嬌。でも!再読者は皆、物語に通底する巨大な流れの一貫性に気が付いて恐れおののくのだ……!本当だ!頼む!信じてくれ!
はっきり言って商業作品では絶対に成立しないレベルで不親切だし、じゃあ非商業だから成立してるのかと言うといや何をもって成立と呼ぶのかという話になるが人によってはまったく受け付けないまま序盤から先に進めないこともあるだろう。
初読者には表層の筋を追うのが精いっぱいだ。が、それ故に読み返すたびに細かな描写意図の発見があり立体的な人物造形への気づきがあり驚きがある。
複雑に織り込まれたプロットと美しく力強い筆致で描かれるのは人間が持つたましいの賛歌であり、たましいを持たぬ獣への哀歌でもあり、それが正しいという保証もなしに荒野を進み続ける歩みについての物語でもある。
『胎界主』より好きな漫画は他にあるけれど、『胎界主』と似たような読書体験ができる漫画を僕は他に知らないし、これから出会える気もしない。
その意味でもって特別な漫画だ。
ところでつい先日、第二部完結後三年の短編発表期間を経て遂に、第三部「翻訳儀典」の連載がスタートした。
なので今が読み始める絶好の機会……なのかと言えば別にそうでもなく、一、二部で合計四千ページ以上あるので最新話まで一気に追いつくのは生活を犠牲にしなければ普通に無理だ。
再読性の高い漫画だから(冗談ではなく嵌った人間は四千ページをぐるぐる周回する)、一周目は雰囲気だけ味わうものと割り切って、空いてる時間にちょっとずつ読んでみるのもいい。Twitterのオタクの感想を漁るのも面白い。
取り合えず頑張って『塔の男』くらいまで読んでくれれば…あの辺から徐々に読み易くなってくる。少年漫画っぽいトーナメント戦も突然ぶち込まれたりする。テコ入れか?
一部の前半がいちばん躓きポイント多い狂気の構成だから後半に辿り着けば比較的に楽……いや本当に……そこまでが長いんだけど…
三部の完結まで少なくとも十年以上かかることが明言されている(狂っている)ので追い付くチャンスはいくらでもある。
万人にお勧めはできない。しかし嵌る人間はどこまでも深みに嵌っていく。
あなたもこの独特で強固な世界に巻き込まれてみてはいかがだろうか。そこには“たましい”を打ち震わす歓喜がある。
余談
それにしても最近は紙の漫画全然読まなくなってしまった。web漫画基本タダだからな……貧困……
上に並んでいるのは「良いと思ったものにはなるべくお金出す善の受け手になりたい」気持ちと「貧困」が戦って善が勝利した記録でもある。
まだ単行本出てない気狂い漫画ではおおよそタイトル通りの内容である「ガチ恋粘着獣 ~ネット配信者の彼女になりたくて~」が楽しい。つよいヤリチンも出てくるぞ。
あとID: INVADEDの漫画版、狂ってるとはまでは言わないけどサイレントでアニメの続編なの結構尖ってんな……いや正直アニメの終わり方だと鳴瓢全然報われてないから続いてくれて嬉しい……
図書館閉まってるから小説は全然読めない。最近の小説は高い……文庫なのに1500円する……貧困……おお貧困……