マスターベーションすら楽しくなくなったらどうすればいいんだ?
Green Day - Longview [Official Music Video]
おぼろげな記憶によると「Longview」の歌詞を「マスターベーションすら楽しくなくなったらどうすればいいんだ?」と訳したのはロキノン系の雑誌で、後々調べてみたらどうも強めの意訳っぽい*1のだが、ともかくそれを読んだantten少年はなーんにも楽しいことがないのに肉体的な快楽に耽ることすら出来なくなる未来を想像して肝を冷やしたので名訳と言えば名訳なのかもしれない。
まさにその想像通りの現在がやってきている。なーんにも楽しいことはなく、自動的に湧いた性欲によって機械的に行うマスターベーションとマスターベーションのあいだのことを「生活」と呼ぶのがここ最近のanttenである。「生活」に高度な自律性など存在せず、低い欲求によって流されるのならまだ活動的な方で、その一日の殆どを怠惰と諦観が重石のように圧し掛かったまま過ごすので創造的活動なんか素振りすら見られない。これでマスターベーションすら楽しくなくなってしまったらどうすればいいんだろうな?
圧し掛かるものを軽くする方法のひとつにアルコールがある。「自分が酩酊状態にある」というだけで面白くなれた頃に比べれば効果は落ちてしまったけれど、それでも合法安価で手に入る向精神薬には違いない。酔っぱらうと漫画アニメ特撮などのコンテンツを楽しく摂取できる……と思っていたのだが、最近は「酔っぱらうとコンテンツを楽しく摂取できる」のか「酔っぱらわないとコンテンツを楽しめない」のか分からない。そんな自分への憐憫も酔って感傷的な気持ちにならねば沸かないものだから、素面の時は「どうしたもんかなぁ」と考え続けている。実際どうしたものなのだろうか。脳みそに直接電極を刺して元気になれる電流を流して欲しいと思う。別に鬱とか希死念慮があるわけじゃなくてただひたすらに元気がないのだ。
筋トレしたり野菜を食べたり瞑想したりすればいいんだろうか。それでどうにかなるならどうにもならなくなる人は存在しないのではないか……と「Longview」を聴きながらぼんやりと考えた。ダウナーな気持ちだからダウナーな曲を聴いているのかダウナーな曲を聴いたからダウナーな気持ちになっているのかも判断ができない。元気がないので……
*1:原詩:When masturbation’s lost its fun You’re fucking breaking
“かっこいい”って何だよ
サイレンを鳴らしながら消防車が道路を走り抜け、少年が「かっこいい!」と声を上げた。僕は「消防車が出動しているということはどこかで火事が起きているのかもしれないということで、誰が火に巻かれて死んでいるのかもしれないのだからサイレンを鳴らす消防車を見ても『誰かが焼死しているのかもしれないなぁ』とは思えど『かっこいい』とは思わないなぁ」と考えたのだが、別に『誰かが死んでいるかもしれない』ことと『かっこいい』ことは同一軸のプラスマイナスではなくて両立しうる別個の評価だ。僕が消防車に興味を持っていないために『誰かが死んでいるかもしれないなぁ』としか思わなかっただけの事だろう、と考え直した。
自分にとってかっこいいもの……特撮が好きなので、最初に思いつくのは特撮ヒーローだけれど、ヒーローの活躍だって基本的に(作中世界における)被害が前提にある。怪獣が街で暴れて人が死なない訳がない。ウルトラマンなんか常にその手の突っ込みに晒されてきた。でも『誰かが死んでそう』だからこそ『死にそうな誰かを守るために戦っている』のだ。そうやってヒロイックに描かれてきたのが特撮ヒーローである。消防車の話に戻れば、あの少年もきっと火事に想像が至らなかったのではなく『火事から被災者を救う車』であることにかっこよさを見出していたのではないだろうか……と考えてふと思う。要素を還元すれば『人が死んでいるかもしれない』のも『人を守るために活躍している』のも同じなのにどうして僕は特撮ヒーローをかっこいいと思い、消防車は別にかっこいいとは思わないのだろうか。現実か否か?直接の関わりがない死者であるという意味で知らん焼死者もテレビ番組の中の被災者も(僕が個人として)向けうる感情なんか変わらんが……
多分だけどかっこいいか否かは要素そのものでは決まらないのだろうな。特撮ヒーローから例を上げれば、僕は「仮面ライダーエグゼイド*1 マイティアクションゲーマー レベル2のデザイン*2」という要素そのものは「かっこいい」の箱に入れていないけれど、「二人のマイティ」*3のシーンはかっこいいし、「ムテキゲーマー*4」のデザインそのものはむしろダサいと思っているが「超キョウリョクプレイで」「クリアしてやるぜ!」*5のシーンはかっこいい。かっこいいかどうかは脳が判断するものだから、要素それそのものではなく脳への伝達のされ方で――この場合は演出で、決まるのだろう。効果的なカット割りもなくただ目の前を通るだけの消防車は単にうるさい車なのだから当然かっこよくない。そして出来の良い消防士のドキュメンタリー映画とかを観たら手のひらを返したように「街を守る名も無きヒーローなんだよな……人間の善意……」とか言い出すんだと思うよ僕は。で、あの少年は既にどこかで(幼さ故にまったくスレていない)彼の感性に合うような伝達をされたのだろう。
伝達のされ方とは関係なくそれそのものでかっこいい要素って存在するのかな……ってこれ「かっこいい」のイデアみたいなもんか?じゃあ存在しないのかな。ブーバ/キキ効果*6みたいな話から連想すると「誰が見ても脳の『かっこいいと思ったときの反応』を(強弱はともかく)誘発するメタリックトゲトゲとかあんじゃないの?」と直感的には思う。視覚的な「かっこよさ」は視覚障碍当事者には伝わらないから完全ではない?視覚障碍のことはいったん脇に置くとして*7「かっこよさ」って人間が先天的に持ってる判断基準はどのくらい強く働くものなんだろうね。後天的に学習される「かっこいい/かっこわるい基準」があるのは当然だけれどもそれすら全員一律に同じ反応をさせることはできないし、かっこいいと思うものに個人差があるからには「ここからが本能」みたいな明瞭なラインは存在しないんじゃないか……性差は?うーんあんまり突っ込んで語れる気がしない。性差があるとしてそれは「かっこよさ」を感じる基準が変わるの?それとも「かっこよさ」要素への態度が変わるの?で、それは個人差よりも有意に大きいの?仮面ライダーに対する脳の反応とプリキュアに対する脳の反応が受け手の性別を基準にして劇的に変化するなんてことあんのかな……変わるとしてその「性別」って肉体的なものに限られるの?地雷原の予感しかしない。
っていうかそもそも「かっこいい」って言葉で語られる「かっこいいもの」が全部同じ情動を引き起こすのかと言えばそんなことはねーじゃねーか。「運命を司る女神に選ばれし勇者しか引き抜くことの出来ない伝説の聖剣」と「責任をきちんととる大人」を同じように評価できる言葉がややこしくならない訳ねーし、「責任をきちんととる大人」という文字列を見て「かっこいいものだ」と感じるときそれは受け手が各々の具体的経験から連想する「責任をきちんととる大人」像をかっこいいと思ってるの?それとも「責任をきちんととる大人」概念そのものを?うーーーーーーん言葉が指す範囲をガチガチに詰めるまでこの話はお終い!でも運命を司る女神に選ばれし勇者しか引き抜くことの出来ない伝説の聖剣を手にした責任をきちんととる大人が消防車に乗ってやってきたら普通にかっこいいと思う。
*1:2016~17年放送の平成仮面ライダー第18作、あるいはその主人公が変身するライダー。この場合は後者
*2:参考:
主人公の初期フォームである。マリオと宮川大輔を足してピンクに塗ったようなデザインは界隈でも大変話題になった
*3:第31話 「禁断のContinue!?」より。激熱名シーン。この場面では設定上別フォームだがスーツはレベル2と同じ
*4:参考:
エグゼイド最強フォーム。光る蕎麦マンとしても有名
*5:第40話「運命のreboot!」より。激激激熱名シーン
*6:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%90/%E3%82%AD%E3%82%AD%E5%8A%B9%E6%9E%9C
*7:特定属性の人々の存在を無視すると言うんですか?「視覚障碍当事者」を「黒人」と入れ替えればご自分がとんでもない事を言っているのが分かりますよ
最近読んで面白かった漫画を淡々と記録するコーナー10月:百合のことなんもわかんない編
泣いたって画になるね
百合に詳しいと自負する人間ではないし百合のオタクを怖がっている人間でもあるので何をもって「百合」で何をもって「百合でない」のか明言するのは難しいが少なくとも「泣いたって画になるね」は女の子と女の子の話ではあった。
親友なんて大嫌い。モブ女子の独立戦争!
幼なじみの親友・リコは最強マブいクラスの頂点。
笑うと当たり前のように風も味方し髪をなびかせ、通り過ぎる人は誰もが振り返る。
幼い頃からずーっと一緒のモブ女子・小枝はある日ついに自覚する。
「ほんとはずっと前から気付いてる。あたしは――コイツが嫌いだ」。
添え物の人生から、自分だけの「特別」へ――
写真部の岡村靖幸好きの男子と意気投合した小枝は、
リコから独立することを誓うが――!?
全女子必読&全男子必修!
サブなカルに生きる小枝のこんがらがった自我の行方は!?
浅野いにおの一番弟子・畳ゆかが贈る、ポップでサイケなガールズバトル・フォー・イグジステンス、もしくはウォー・オブ・インデペンデンス開幕!!
単巻完結。
上記はAmazonの商品紹介文をそのまま張り付けたものだが半分くらいはウソで、ポップでサイケな実存確立物語では決してなかったし、親友から“独立”する話でもない。
形容するなら「痛々しい敗北譚」としか表現しようがなく、人生を横断する強烈な存在に挑まんとした結果、戦いに負けるだけでなく勝負の土俵にすら上がれなくなるキツい話だ。読んでいて口の中に広がる苦々しさは、読者としての僕自身の十代の日々を――青春なんて言い方は出来ないような黒々とした日々を――想起させるえぐい読み味。自意識の空回りだけが存在する黒々とした日々にはただ“自分に輝ける場所はない”という諦観があるのみで、この作品におけるそういった諦観の向く先はすべて“親友”のリコという女に集約されるようになっている。
この女はあらゆる意味で「理不尽なもの」であり、そして人生を理不尽に振り回される小枝という女は、理不尽を理不尽として受け止め抵抗することでしか「何者か」で居られない。だから原理的に勝てない。
ひどく邪悪な女女漫画だな~~と思う。読み返すのにも体力が要る。
1、2話は↓から読める。
ガチ恋粘着獣~ネット配信者の彼女になりたくて~
ルックスの良さで、同級生から一目置かれる女子大生・輝夜雛姫。 そんな彼女には誰にも言えない秘密があった。 それは、とある配信者グループのメンバー・スバルに“ガチ恋”していること…。 本気でスバルと付き合いたいと願う雛姫に、ある日見知らぬアカウントからDMが届き、 雛姫の人生は一変する――。
いま連載されているweb漫画の中ではトップクラスに面白いと個人的に思っている。
「ガチ恋して粘着する」という行為に対しての向き合い方や、心の在り方、純度のために何を差し出せるのか?と狂った女が自分自身に問いかけ続けるような……いわば「道」の話だ。更に粘着される側である配信者「スバル」が単なるヤリチンでも純粋な被害者でもないところが「道」に立体感を与えている……世界で唯一の「ガチ恋粘着道」の漫画がここにある。
そんな漫画だけどTwitterの感想を漁っていると百合的に解釈している人もいる。
なるほど主人公「ヒナ」と、中盤から登場しヒナと対立するスバルガチ恋勢「りこめろ」の関係性に注目すると、同じものを見て同じものを渇望し同じように狂い、だからこそお互いの熱い感情に共感できる、お互いにとって一種の理解者のような描き方をされている。
そして、この漫画全体を俯瞰すれば、同じ憧れを抱く二人の女の人生が一瞬だけ交差し、「ガチ恋粘着」という行為に対しての純度の差によってその後の歩みが分かたれる……という構図になっていることがわかる。ヒナが/りこめろが何故、こうなったのか/ああなったのか――が、そのまま全体のテーマになっているのだ。女と女がテーマ性を相互補完するという意味で女女漫画と言えるだろう。
ヒナの話は終わったけれど、熱狂冷めやらぬうちに新たなガチ恋勢が活躍する第二部が始まって今盛り上がってる漫画でもある。あるんだけど……ただこれ基本アプリで単話売りしてる漫画で、単行本の二巻がなかなか出ないからお勧めし難いんだよな~~~~おれは待ってるからなコアコミックス~~~放り投げないでくれ~~~~~
1~3話は↓から読める。
「しにたいおんなのこ」シリーズ
Twitterで連載されていたポップでゴアなサイレント漫画三部作。
肉体的に不死身の女の子が死のうとし続ける「しにたいおんなのこ」
何故死にたいのかが間接的に明らかになる中盤からジャンルごと変化するような劇的で壮大な大回転を見せ、その先に辿り着く言葉など要らない溢れるほどの愛はサイレント漫画の形式でしか表現できないだろう。そして可愛らしい絵柄で描かれた女の子と女の子が若干にエッチなことをする漫画でもある……
巡る因果の物語「ちょっとしにたいおんなのこ」
前作に比べてごく狭くごく身近な範囲で善意が巡り巡り、しにたいおんなのこの元に戻ってくるので死ねない話。その死ねなさと言ったら殆ど呪いのようでもあるけれど、最終的に善い行いに善い結果が返ってきて幸福に満ち満ちる漫画であり……読んでいて嬉しくなる。前作程エッチではないが、可愛い女の子と女の子がしっかりガールズラブをやる。
そして外伝、「したいごっこ」
毒々しくて騒がしくて、どこか楽し気な擬死と、ただ静かな本物の死の物語。一作目のような盛り上がりだとか二作目のような大団円感はないけれど、それは今作で描かれる「死」が穏やかで平和で、読者にとっても有り触れたものであるからだ。「死」をポップに誇張してきたシリーズの落着点として正しい。三作の中でも特に「ゆめかわいい」的な文脈の影響が強いように見える。気のせい?個人的にはいちばんエッチ!
「性的描写があればレズ、レズと百合は別」みたいなこと主張したオタクが別のオタクに囲まれて殴られるやつ最近もやってるんだろうか。
まあ性的描写の有無によって変わるのはレーティングだけであってジャンルじゃなくね?とは思うけれどキルタイムコミュニケーションとかから出てるゴリゴリにR-18のレズレイプ漫画とかがいわゆる「百合」的な消費をされてるとこはあんまり見たことがなく、たぶん曖昧だったり時に移動したりするだけで境界線はあるのだろう。曖昧なジャンル語るの怖えー。でも少なくとも「しにたいおんなのこ」シリーズは女の子と女の子が幸福になったり思い出に浸ったりする話で、エッチだけど女女の漫画だとは思う。エッチだけど。
購入せずとも↓のモーメントから読める(ぼくはありがとうの気持ちで買った)
これにて『しにたいおんなのこ』は完結しました。
— るぅ (@kawaiishinitai) 2020年9月1日
まとめて見られるモーメントがあるので通して見て頂ければ幸いです。
ありがとうございました。
『しにたいおんなのこ』https://t.co/6MuSyR3g4H
『ちょっとしにたいおんなのこ』https://t.co/lkEnv83ptt
『したいごっこ』https://t.co/UNk5VYUC3x pic.twitter.com/eHzBgPyD6W
あなたが思う面白百合漫画も募集中。Twitterとかredditでレスをくれ。最悪面白ければ百合でない漫画でもよいです。現実はしょうもないが面白漫画は面白い……