財布がぶっ壊れた。
文化資本が低いのでお金を入れるものにお金をかける意味が分からないままイイ歳になってしまった僕の財布は中学生の頃からずっと使い古していたもので、物持ちが良いのかと言えばまったくそんなことはなく部分部分をテープで適当に補修して無理くりに延命させていた。
中に収まっているのはお金よりも専ら、作ったはいいが使わないポイントカードであるとかポイントカードであるとかポイントカードで、カード入れにポイントカードを詰め詰めに詰めた結果布の端が遂に千切れてしまったのだった。
まあ別にこれだってテープで補強して使えないでもないけれど、僕のことだから外で財布を取り出したときに剥がれたテープの隙間からカードをぼろっと落としてそのまま失くしてしまいかねない。落とすのが使わないポイントカードならまだマシだが、免許証やクレジットカードとなると笑えない。
いい加減に新調すべきなのだろう……とまで思い至ってふと考える。財布ってどこで買う種類のやつなの。教えて貰ったこと無いぞ。
社会をちゃんとやれている成人はきっと財布もちゃんとしていて、もちろん財布以外の身に着ける小物もちゃんとしていて、ちゃんとした小物を入手出来ているからにはちゃんとした小物が売っている場所も恐らく存在している。
どこなんだろう。
ドンキとかではないよな。ドンキとかに売ってるのはちゃんとしてないやつ。
例えばちゃんとした服とかちゃんとした靴はちゃんとした服屋とかちゃんとした靴屋に売っているんだと思う。“思う”という言い方をするのは入ったことはないけれど存在は認知しているからで、ちゃんとした財布屋となると存在も知らない。
いやあるんだろう多分。僕が知らないだけで。パーカージーンズで入店すると店員から嘲笑される財布専門店が日本のどこかにある。
ちゃんとした財布にしろ服にしろ靴にしろ「ちゃんとした大人村」のコードなのだから「ちゃんとしてない大人村」の住人である僕が入手方法をよく知らないのも道理ではあるけれども、ほんとうは複数の村を好きに行ったり来たりできるのがいちばん良い筈で、ちゃんとした小物の買い方を知って損はない、たぶん。
個人的なことを言うと、僕は「知らない」ことで相手を矮小化しマウントを取るために目と耳を塞ぎ続けるタイプのファイトスタイルをスノッブ的文化に対して取ってきたフシがある。ズルいのでそろそろ止めたい。でもブランド知識でマウント取るような人間になったら首を捩じ切って欲しいし、ちょっと知識が増えただけでそうなっちゃう自分が簡単に想像出来るのでどうしたものだろうか。そもそもを言えば村人をやりたくない。樽の中に住んでタコにあたって死にたい。*1
いや……なんとなく予想はつくんだよ、たぶんちゃんとした財布はプッチとかエルメェスとかエンポリオみたいな名前のブランド店に売っていてそれは銀座とかにある。
銀座には電車に乗ると行けて、そこは日本でも特にちゃんとしている土地である東京の中でも特にちゃんとしている街なので歩く人々も例外なくちゃんとしており、ちゃんとしていない人間が足を踏み入れると爪先から蒸発して死ぬのではないかと不安になる程ちゃんとしている。だが恐れることはない。もしあなたがちゃんとしていないとしても、ちゃんとした小物を買う為に銀座の街に立ったとして死ぬことはない。
何故ならば「銀座でちゃんとした物を買おう」と考えた時点で、あなたはちゃんとしようとする意志を持った者だからだ。銀座はあなたを受け入れる。銀座はちゃんとしようする精神を拒まない。故に銀座は日本最大のちゃんとしている街なのである。
ちゃんとしたいか。
どうだろう。
別にだな。
だってお金を入れるものにお金をかける意味が分からないし……うーん文化資本が低い。
ヨシ!
そしてこれは作ったはいいが使わないポイントカードピラミッド。