職場の傍の公園には枝を大きく広げたケヤキの樹が何本も伸びていて、今くらいの時期になると風に乗った枯れ葉がこちらの敷地にまで無限に転がり込んでくる。

 誰に具体的な指示を受けたわけでもなく完全に自主的な判断で賃金が発生しない早朝に好んで出勤し一片の不満も不服も抱かず納得尽くの態度で掃き掃除をしていた僕は、積もった枯れ葉の中にキアゲハの羽が埋もれていることに気が付いた。

 生きものなのだから死ぬこともあるだろう。羽を根元からもがれた虫が転がっていることそれ自体は驚くべきでもないけれど、思い返してみるに僕は蝶の死骸というものを人生で初めて見た気がする。何でこれまで機会がなかったのだろうか。あっという間に死んであっという間に朽ちるから?ホントか?

 だいたい虫って言うのは成虫に変態して交尾を終えた瞬間にエネルギーを使い果たすようなイメージがある。インターネットで調べたところによると(インターネットにはこの世のすべてが書いてる)やはり野生のキアゲハは成虫になってからは二週間程度の命のようで、蝉の成虫の寿命が一ヵ月程度らしいから何だよ蝉より蝶の方がずっと短命なんだな。蝉の死骸、夏の終わりにはどこを歩いても目に入るせいで「蝉の成虫の寿命は一週間しかない」俗説が長い間説得力を持ち続けたのだろうと思う。イメージ戦略の勝利。街路樹だろうと引っ付くことさえ出来ればミンミン鳴き続けガンガン交尾してボロボロ死んでいく過剰に哀れっぽい蝉に比べて、黙って生きてひっそり死んでいく蝶のなんと奥ゆかしいことだろうか!主張しないと損してたって誰にも気づいて貰えないんだな~~社会じゃん。

 ともかくキアゲハは枯れ葉と一緒にビニール袋に詰められ捨てられ、そのうちに燃やされて灰になる。まあ死後ゴミとまとめて灰になりがちという点で都会に生息するあらゆる昆虫に大差ないのだし、やはり死はすべてに対して平等であることだなあ。死にたくねぇ~~(もしこれが戯曲なら なんてひどいストーリーだろう 進むことも戻ることもできずに ただ早出して無償労働してるだけなのだから)~~!

 

 

 

 

おわり