日記:一月六日

 この季節にしては珍しいくらい穏やかな日差しは、少し早めの小春日和と言ったところだろうか。冬が終わる気配に浮足立ってしまったので仕事からの帰り道、普段よりもひとつ前の駅で電車を降りて街をゆっくり歩いてみることにした。

 向かった先は区立公園。いつか散歩したいな~と思っていたけどその「いつか」が東京に越してから五年以上来なかった場所だ。

 暮れなずむ空の下。園内には僕と同じようにのんびりと歩く人の姿がちらほらと見えた。太陽は夕闇に追いやられて西の果てに逃げたけれど、最後っ屁のような温風が強く吹き付けると、背中の空気を押し出されるように大きなあくびが出た。

 久々に歩いたものだからスーツの内側が汗で蒸れる。襟首を緩めながら公園を見渡すと黄色い花が目に入る。街灯の明かりを受けて宵闇にぼんやりと浮かび上がるその花に妙な色気を感じて、興味を惹かれてたので花壇に近づいてみた。黄色くて小さな花弁は菊の花のようだったが、それにしては少し小さいようにも思う。

 スマートフォンで調べてみると「キンセンカ」なる花らしい。食用菊に使われているのはこの花で、つまり食べられはするのだが特別美味しいものではないそうだ。

 この花が咲くには本来少し早いのだけれど、この数週間の穏やかな天候のせいで、普通よりも早く花弁が開いたのだった。

 キンセンカの香りに誘われたのか、あるいは仕事で疲れてしまったからか、僕はキンセンカの花壇に腰を下ろした。本当ならベンチを探すべきなのだろうが、いったん座ってしまうと中々立ち上がる気になれない。

 暖かな空気に抱かれ、僕はそのまま瞼を落としたのだった……

 

 

 

おわり