マスターデュエルとぼく

 

 戦争やってんのに遊戯王やってるんだなと思いながらマスターデュエルを遊んでいたらプラチナTier1になった。知らない人のために説明するとプラチナTier1というのはいちばん強いということです。道を開けろ雑魚共。

 まあロシア軍がウクライナに侵攻する前から危機は依然として騒がれていたけど僕は気にせず遊んでいたのだから何を今更社会派ぶっているのかという話であるし、もっと卑近な例で言えばコロナ禍三年目に突入した今の日本にだって困っている人は大勢いるのにやはり気にせず好きに遊んでいる。げに恐ろしきは人を社会的な不感症にさせる遊技の力か。そりゃあ偉い人も昔から娯楽を管理下に置きたがる訳だなあと納得するけれど、僕が子供の頃に遊んでいた紙の遊戯王はここまで人を耽溺させる力はなかったよな、と振り返って思う。

 パックを買う以外に収集方法がないから同じカードを三枚集めるのは実質不可能、強いデッキの組み方とか回し方とかよりも光っているカードが入ってるパックのサーチ方法*1ばかり共有されるので戦略が洗練されない、そもそもルールを正確に理解しているプレイヤーが存在しないし学ぶ方法もまったく用意されていないのでテキスト解釈で揉める*2。アニメが流行ってるから遊んでるだけでみんな薄っすら「つまんねー」って思っているので別のものが流行った瞬間に誰も遊ばなくなる(なった)……だいたいサーチを抜きにしたって子供にとってのカードゲームなんて小遣いの多い奴が勝つだけのゲームだし、トレードのレートはクラス内ヒエラルキーがそのまま反映される。辛いね。

 対してマスターデュエルである。計画的にカードを集めれば複数デッキを組むのもそれほど難しくはなく、カードプールは紙の約一年遅れなのを踏まえても異常なほどに広大で、細かくて複雑な処理は勝手にやってくれるから揉めは発生しない。ランク戦は数秒でマッチアップするので対戦相手に困ることもなく、インターネットには二十年以上積み重ねられた攻略と研究の資料が大量に公開されているし、コミュニティも活発。何だかんだでガチャ石もよく配られるし、火種が燻った時の運営の対応も早い。カジュアルマッチがないという不満点も偶に上がるが、いちおうルームマッチはあるので代用しようと思えば出来る。最高のゲームだ!

 最大の欠点と言えばこの最高のゲームで遊べるのが遊戯王OCGとかいうクソゲーであることで、ただでさえクソゲーなのにシングル一本勝負しか用意されていないので圧倒的に先攻有利である。先攻を取って妨害カードを並べまくるゲーム。先攻を取られて妨害カードが並ぶ様をじっと見つめるゲーム。カードに書いてるのは日本語ではなく“遊戯王カードのテキスト”なので直感的に挙動を理解できないし、だから相手の先攻制圧から何かを学び取るのは初心者にはまず不可能。だだじっと見ているしかない。

 上から下までインフレしまくっている現代遊戯王はそもそも友達同士以外とカジュアルに遊べるようなものではないんだからカジュアルマッチがないのも当然だ。仮に実装されてもランクマッチではいまいち勝ちきれない中堅上位デッキがカジュアルに遊ぼうとした初心者を蹂躙する悲しい光景がどこまでも広がることだろう。このゲームって「先攻取って手札誘発*3食らわなきゃ強い」みたいなデッキが無限にあるし。

 実のところ僕の使う【ジャンクドッペル】もそんな中堅上位デッキのひとつである。

「うらら*4無さそうだったらぶん回す、有りそうだったらハリファイバー*5に当てられる前提で無理くりアウローラドン*6まで行ける展開を意識する、増G*7とかドロバ*8とか泡影*9とかヴェーラー*10とかを無効に出来なかったら黙して死を受け入れる、ニビル*11が出てくるのは俺じゃなくて運が悪い」

 意識した戦略はこれだけで、先行取られたときに誘発投げるタイミングなんてネットの人が「ここで使え」って教えてくれたのをそのまま真似してるだけなので知らんデッキは初動で止めるしかない。先攻取られて三妨害も立てられると、どんなに手札が良くても捲る力がないのでそのまま死ぬ。

 とは言え、誘発1枚、妨害1個くらいなら割となんとかなるし、誘発握れなかった相手を交通事故みたいに轢き殺せばいいだけなのだからプラチナ帯に上がること自体は難しくはない。今シーズンでは一旦プラチナ1に昇格すると降格はないので勝敗に拘る圧もやや減っている。

 そんな訳で環境が多様になってきたシーズン末期だからギリギリ滑り込めただけ……と言われば返す言葉もない。調子に乗るな誘発投げて来ない壁とやってろひとり遊び野郎、とマスターデュエル既プレイヤーは指摘することだろう。それもまた甘受するのみである。けれども【ジャンクドッペル】はしょうもないデッキなのか?と聞かれれば明確にノーと答える。

 ぶん回れば環境上位相手でも捲られることは殆どないのだし、初手がいまいちでも《混沌魔龍 カオス・ルーラー》という強引にソリティアするためだけに存在しているカードのお陰で強引にソリティアできることが多い。強引なソリティア最高!

 デッキ名の下半分こと《ドッペル・ウォリアー》さえ展開に絡められれば何分もソリティアが続くので、「最終盤面はちょっと脆そうだな…」みたいな時でも嫌気差した相手が途中でサレンダーしてくれることがある。これはランクマッチだ。耐えられなかったお前が悪い。

 デッキ、手札、墓地、除外、どの領域に何があるのか、1ターンに1回しか使えない効果のうちどれをどの順番で使うか、このタイミングでこれを使えば欲しいカードを引ける/墓地に落とせる確率はどの程度か、最終的な盤面はどこまで辿り着けるか……思考を巡らせながらパッチンパチンとカードを出し入れする時の脳味噌は仕事中でもこれ程までにはと言うくらいに活性化し、アドレナリンが分泌して、イライラしながらターンが返ってくるのを待っている画面の向こうのお前を幻視する。それが楽しくて仕方がないからソリティアを使っている。

 これは多分僕だけじゃなくて展開系のデッキを組んでいる人は皆おんなじ感じだと思う。いい年してカードゲーム遊んでいるやつに善人は存在しないので……

 

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 条件が整えば先攻1ターン目に6ドロー+つよつよシンクロ3妨害+墓地から1妨害+ついでの1ハンデス+脳汁の分泌が得られちまうんだ! このクソゲー自分が先攻制圧してる時だけはクソゲーであることを忘れるくらい楽しい。

 展開パターンの多さ故に最初は使うのが難しいデッキではある。だからこそ「あっここから動けるじゃん!」と気づく瞬間が――ネットに書いてる展開例のコピペではない自分だけの閃きが――ジャンドを使っていると必ず訪れる!【ジャンクドッペル】とはそう、戦いの中で成長するタイプのデッキなのだ。

 理不尽に殺され、理不尽に殺し、自分の成長を実感しながらアドレナリンを求めてひたすらランクマに潜りまくる。それが【ジャンクドッペル】であり――あるいはマスターデュエルそのものなのである。

 中毒性の高いクソゲーを遊べる神ゲー マスターデュエルを評するのに適切な表現はこれを置いて他にない。

 昔遊んでいた紙の遊戯王はただのクソゲーだったから嵌ることもなかったが、マスターデュエルでは涙と鼻水と耳汁を垂らしながらソリティアしまくっている。難しいことを考えるより画面の向こうの相手を圧殺したい。僕のようなやつがいるからいつまでも人類は他人に無関心で世界は平和にならないのだと思う。戦争やってるし少数民族が迫害されてるし環境変動で人の住む場所が減りそうだし自然資源が枯渇しそうだし日本の入管では人権侵害が行われているしパンデミックは終わらないし貧困と諦観は他人事ではなくそこら中に横たわっているけれど、これからも遊戯王をやるぞ。次は【召喚シャドール】か【天威竜星】を組みたい。制圧力なら前者、ソリティア力なら後者だろうか。天威かなやっぱ。汁を垂れ流すぞ~~!

 

 

 

 

 

おわり

*1:昔はそういうのがあった。パックに触って弄るカスが大勢いたので全国的にカードゲームのパックはレジの裏に並ぶようになった。

*2:プレイマットを持っている奴がいなかったから融合デッキの概念もよく知られておらず、メインデッキに融合モンスターが投入されていた。

*3:相手ターンに手札から使える妨害カード。そういうのがある。

*4:手札誘発のひとつ。自分の後攻初手では九割引けないが、相手の初手には九割入っている。

*5:ソリティアみたいにカードをペタペタ並べる展開の基点になるカード。

*6:ソリティアをするためだけに存在しているカード。

*7:俺に気持ちよくデュエルさせねぇ手札誘発。

*8:同右。

*9:同右。

*10:同右。

*11:ソリティアデッキを絶対殺すカード。