日記:十一月十八日 真藤順丈「ジョジョの奇妙な冒険 無限の王」を読んだ

 二部と三部の間を書いたスピンオフ小説。ジョジョ世界において「スタンド」という名称が発明されるまでの話。

 

 過剰でけばけばしいラテンアメリカ世界が過剰でけばけばしく、でも自己陶酔的にならないようにコントロールされた文体で鮮やかに表現されている。表紙ではリサリサがカッコよく立っているけど本筋の主人公はグアテマラで路上生活を送る青年ふたり。路地裏の顔役のような彼らがスピードワゴン財団に協力して“波紋とは違う謎の能力”を追ったり追わなかったりする。

 理外にして不可視の能力を向けられ「よくわからんが何かとんでもないことが起こっているぞ!」と作中人物と読者を混乱の渦に叩き落とす奇怪で迫力のある筆致を楽しく読んだ。どれも凝っている敵スタンド描写がこの小説の白眉であると思う。

 けれどバトルそのものは機転だとか知略による逆転で決着するものでないのがちょっと寂しくて、加えて人物描写がかなり湿っぽいので「ジョジョの小説を読んでいる」感じはあまりしなかった。湿っぽいブロマンスが好きな人に刺さりそうな感じはあるけれど。

 じゃあジョジョでやる意味ないのかと言えばそうでもなく、「その要素をここで引っ張ってきてこう使うのか」みたいな原典に触れているからこそ分かる意外性の面白みが結構ある。まあ引用の用途はギミックの説得力を増すためで、やっぱりジョジョで無くてもいいと強弁しようと思えば出来そうだが、ジョジョみたいな濃い作風の漫画をノベライズするならそれなりに我を通さないと原典に呑まれて小説としてはつまらなくなってしまうだろうし、これはこれでいい。真藤順丈の作風にジョジョの要素が組み込まれているラテンアメリカ怪奇小説として読むのがいちばん良いだろう。

 ただ荒木飛呂彦に立ち向かう路線だと先行作品にして大傑作「JORGE JOESTAR」が立ちはだかるので中々難しいところだ。

 

 

おわり