男性が小指、親指、人差し指を立て目尻に当てて隣を歩く女性に顔を向けると、女性も同じポーズを取って一瞬笑い合い、しかしそこから何かが起こる訳ではなく数秒後には元通り前を向いて歩き続ける、という光景を見たのだが、あの瞬間二人の間で何がやりとりされたのだろうか。いや具体的な情報が行き交った訳ではなく仲の良さの確認というかファジィな感情の向け合いだろうなとは思う。反射的に同じポーズを返していたのが如何にもそれらしい。イヌやサルであるとかが言葉を使わずともグルーミングと威嚇で社会をやれているのなら、ヒトが最初に話した言葉もあのポーズのようにそれ自体に意味はないところから始まったのかもしれない。そう仮定すれば、感情のやりとりに使えれば厳密な意味は問わない話し言葉と何かを記述するために発明されたので意味しか問われない書き言葉が、かつては多くの文化圏で一致していなかったのも直感的に納得できる気がする。いやあの男女が指や表情を用いて高度に情報圧縮された会話をしている可能性もあるけれど。「こちらをジロジロ見ている不審者発見」「殺そう」「同意する」みたいな。
おわり