五億円くらい落ちてないかなと思いながら雨中の河川敷を歩いていたら傘で切り取られた視界の足元にボストンバッグが入ってきた。
それもただのボストンバッグではない。錆びた台車の上に乗せられていて、何時間も放置されたかのようにびしゃびしゃに濡れていて、そして周囲を見渡しても運び手どころか人っ子ひとり見当たらなかった。
“物語”を感じた。その迫力たるや五億円とは言わずとも三百万円くらいは入っていそうな程だった。足を止めて、バッグの中身を覗いてみることを真剣に考えた。
まあ事前準備もなく突然“物語”をぶち込まれても日和るしかなく、結局何も見なかったことにしたのだけれど、もし蛮勇を発揮してジッパーを開いていたら今頃どうなっていたのだろうか。何かが始まっていたのかもしれないし、もちろんスポーツ少年の忘れ物が入っているだけかもしれない。
所用を済ませた帰り道に同じ場所を通ったときには既に片付けられていた。アレすら触れないんだから道に落ちてる五億円を拾うことも一生ないんだろうな僕は。
おわり