日記:六月二十一日 あの液体の正体がなんであれ強烈な悪意を含んでいたのだけは間違いない

 駅のトイレで大便をしていると床に水たまりができているのに気が付いた。距離で言って20cmほど先、くすんだ白色のタイルに濁った液体が広がっている。天井を見上げる。雨漏りだとかの様子はない。

 この液体は何なのだろうか。ここはトイレである。最悪の予感が頭をよぎる。

 急いで用を足そうと下半身に力を込めると、その怯えを捕食者めいて察知したかあるいは床が傾いていたのか、液体はゆっくりと便器の方へ――僕の足元に向かってとろりと流れ出した。

 起きてはいけないことが起きてしまっている、と思った。タイルの溝に沿って筋を広げながら、液体は15cm、10cmと近づいてくる。僕は下半身を気張らせる。出すべきものを捻り出し、紙を沈め、トイレレバーに手をかけたとき、その邪悪な液体は僕の靴の5cm先まで迫っていた。

 正直に言ってその後の記憶は曖昧だ。気づいたら駅の外にいた。恐怖のあまりに脳が忘却を選んだのだろう。

 あの液体が何だったのか、今となっては分からない。しかしその正体がなんであれ人類そのものを憎悪するような強烈な悪意が含まれていたのだけは間違いない。そう確信している。

 

 

おわり