・「19世紀イタリア怪奇幻想短篇集」橋本勝雄・編訳
全体的に素朴な読み味なので派手なプロットに慣れきった21世紀日本人が無理に読む必要は別にない。ヨーロッパ史のことを何ひとつ知らないので固有名詞に細かく注釈が入っていたのは助かった。むしろ注釈追ってるだけで面白い。
読んでいて楽しかったのは人種対立とチェス盤上の対立を重ね合わせる書き方がアツかった「黒のビショップ」と文体が好みだった「木苺のなかの魂」、すごい叙述トリックだったのが「ファ・ゴア・ニの幽霊」で、訳者まえがきで日本人の幽霊が登場する話だと説明されたが、まさかファ・ゴア・ニが日本に住んでいる日本人の名前だとは思わなかった。
・「図書館奇譚」村上春樹
短編小説(図書館奇譚)を改稿した挿絵付きの絵本(ふしぎな図書館)の装丁とイラストを変えてドイツで翻訳出版されたアートブック(Die unheimliche Bibliothek)の日本語版、ただし内容は「ふしぎな図書館」ではなく短編小説の「図書館奇譚」に手を入れたもの。本を借りにきただけの少年が図書館の地下に閉じ込められたり何だりする。
挿絵がかっこよくて良かった。つじつまの合わない不穏さが漂うという意味で悪夢めいている。ファンタジックというか抽象的な作風は妙に居心地がよく、怖い癖に牧歌的で想像力を掻き立てるものがあり、海の東西を超えて絵本化されるのもなんとなく理解はできる。短くてさっと読み終わってしまうのは良くも悪くもか。というか村上春樹は図書館のことをなんだと思っているのだろう。
・「出版禁止」長江俊和
和製ホラーモキュメンタリーのはしりである「放送禁止」シリーズの企画構成を務めた長江俊和が手掛ける禁止シリーズ第一作。ある理由から出版できなくなってしまったルポルタージュを読み解く話。
「封印されたルポ」の体でやるようなことじゃないように思えたが、『「封印されたルポの体をとっている」という体をとっている』小説と考えれば成立はするか。大ネタの無茶さを呑み込めれば狂気的でいて同時に悲しい話として読めるかもしれない。
シリーズ続刊にまだ手を伸ばせていない。来年には。
・「ぼくはきっとやさしい」町屋良平
よく……わかんなかったッス!惚れっぽい青年の一人称で進むが恋愛小説って感じではない。
同作者の芥川賞受賞作「1R1分34秒」が大傑作だったので他にも手を伸ばしてみたのだけど、こちらは何が語られているのかついぞ掴むことが出来なかった。蛙化現象?に振り回される青年の話?なのか?いや青年も割としょうもないカスではある。おれこういうのわかんねーッス人間関係を拒絶して生きてきたから。
というか“わかりやすい本筋”みたいなものを追えるようには書かれていない気がする。「何なんだコイツ……」と思考の流れに呆れながら他人の人生を覗くように読むのがいいのかもしれない。コミュニケーション識者なら感じ入る部分もあるのだろうか。
水没天丼はちょっと笑ってしまった。
・「いつも怒っている人も うまく怒れない人も 図解アンガーマネジメント」戸田久実・安藤俊介
こういうの読んで自分の感情をコントロールできる人間は何も読まなくても自力でどうとでやれるだろ!!!!と怒り、6秒かけて落ち着いた。