金持ちが庶民を集めて人間狩りをする話。
さっぱりコミカルに味付けされた派手で小気味いいゴア描写が目を惹く。特に序盤は景気よくバンバン人が死にまくるのでウヒョヒョ楽しいな~と気軽に観ていたのだけど、途中で視聴姿勢を正さなくてはいけなくなった。
この映画、かなり正面からアメリカ社会の分断を題材にしていて、そもそもの設定が「セレブの人間狩り」なんて陰謀論めいているのも単なる時事ネタじゃなく物語上の意味をちゃんと持っている。黒幕の動機にも現代的な納得感が……あるとまでは言わないが、アメリカに限らず日本でもインターネットの治安の悪い部分に触れてしまって嫌ァ~な気分を味わった経験のある人なら「まあ…そりゃ…怒るよね!理解はできるよ!」と寄り添えないでもないんじゃないか。共感はしないけどね!
途中挟まれる「ウサギとカメ」の邪悪版みたいな寓話が今作の思想的な中核だと考えていて、主人公はウサギ、黒幕はカメに当て嵌められるのだけどカメは努力して勝った者ではあるし作中寓話におけるウサギは勝利を簒奪する者でもある。上下とか右左とか関係なく皆自分は不当に虐げられている側だと感じているんだよな。そしてそれはある面では事実だ。強者とされる人がある部分で弱いのは本当に当たり前で、弱者とされる人がある部分で強いのも同じくらい当たり前で、だから「強者に虐げられること」への怒りは誰でも燃やし得るし、誰でもやれる程度のことだからこそ怒りベースで何かするのは事の大小を問わずマジでやめた方がいい……って話だと受け取った。
前述したように「さっぱりコミカルに味付け」されているのは、こってりシリアスに描くにはあまりに重くて難しい題材故だろう。それでも国内の政治問題をエンタメに昇華できてしまうのはハリウッドの強さを感じる。
ただちょっと鼻につくのが、敢えて内面を描かない主人公のキャラクター造形が象徴するように、陰謀論者を小馬鹿にしながらリベラルエリートを冷笑するような俯瞰気取りがいちばん気持ちよくなれるように作られている映画でもあって……これを鼻につくと表現するのは何周目の逆張りなんだろう。ともかく「お利巧ぶってんじゃねーぞ俯瞰クンがよ」と思わないでもなかった。いや面白いは面白いよ。
言い方を変えればどの立場にも肩入れせず人間が死にまくるところを客観的に撮っているということだ。アメリカの政治なんぞにまったく興味ない人こそ面白ゴア・アクション映画として真に楽しめるのかもしれない。